店舗や施設の営業状況やサービス内容が変更となっている場合がありますので、各店舗・施設の最新の公式情報をご確認ください。
イギリスの伝統料理「スターゲイジーパイ」って?
「イギリス料理はまずい」という印象が世界的についてしまっています。例えば、安くて手に入りやすかったうなぎをぶつ切りにし、ゼリーで固めた「うなぎのゼリーよせ」は見た目はさることながら、味もまずいといわれています。
ほかにも、チョコのような見た目をしていながら塩っぱく独特の風味のある「マーマイト」や、羊の内臓を茹でてミンチにし、スパイスと混ぜた「ハギス」など、イギリス料理はまずいことで世界的にも有名になっています。
イギリス料理は見た目のインパクトはもちろん、味のインパクトが大きいものも多いです。イギリス料理がまずいといわれるのには、さまざまな理由があるといわれています。まずは、宗教的な理由から料理に楽しみを求めていなかったからという説です。
政治的な理由から豪勢な食事が悪いことだと捉えられていた歴史があったり、フランスを嫌っていることから美味しいフランス料理を楽しく食べることを避けた、といった理由も関係しているのではないかと考えられています。
イギリス料理がまずいということは、イギリス人の間でもジョークとして広く使われています。今回ご紹介するスターゲイジーパイもイギリス料理のひとつです。スターゲイジーパイのインパクトは、SNSでも定期的に話題になります。
見た目のインパクトが大きすぎるスターゲイジーパイの歴史や、まずいのかどうか、スターゲイジーパイを購入できるお店などをご紹介していきます。スターゲイジーパイについて詳しく知りたいかたはぜひ参考にしてみてください。
イギリス・コーンウォールの伝統料理
スターゲイジーパイは、イギリス・コーンウォールの伝統料理です。イギリスの南西にあるコーンウォールは、独自の言語や文化をもっています。コーンウォールへは、イギリス・ロンドンにあるパディントン駅から電車でおよそ6時間ほどで到着します。
独自の文化をもつコーンウォールには、数々の観光スポットがあります。コーンウォールに古くからあるケルトの聖地「聖ミカエルの山」には、巡礼者が訪れます。コーンウォールの聖ミカエルの山は、フランスの世界遺産であるモンサンミッシェルに似ているといわれています。
コーンウォールには、ランズ・エンドすなわち「地の果て」と呼ばれる岬があります。強い風が吹く岬からは、自然豊かなコーンウォールの土地を見渡すことができます。コーンウォールの地の果てから見える海の底には、ひとつの国が沈んでいる、ともいわれています。
コーンウォールは歴史深く、また独自の文化や言語をもっています。ここコーンウォールに伝わる伝統料理がスターゲイジーパイです。ここからはコーンウォールで生まれたスターゲイジーパイについて、もっと詳しくご紹介していきます。
毎年12月23日に食べられる
スターゲイジーパイは、コーンウォールで12月23日にのみ食べられる伝統的な料理です。12月23日、コーンウォールでは「トム・バーコックス・イブ」を祝うためにスターゲイジーパイを食べます。トム・バーコックスについては後ほど詳しくご紹介します。
コーンウォールでは12月23日になると、各家庭でスターゲージーパイが作られます。トム・バーコックス・イブを祝うため、港町のレストランでスターゲイジーパイが振る舞われたり、ホテルでスターゲイジーパイとともにイベントを祝うこともできるようです。
スターゲイジーパイってどんなパイ?
イギリス・コーンウォールで12月23日限定で食べられるスターゲージーパイとは、一体どのような料理なのでしょうか。見た目のインパクトばかりが取りただされますが、そこには深い歴史があります。ここからは歴史深いスターゲイジーパイの詳しい情報をまとめていきます。
パイ生地から魚の頭部や尾部が飛び出している
パイから飛び出した魚の頭、そして飛び出す魚のしっぽたち、これがスターゲイジーパイ の見た目です。コーンウォールで食べられるスターゲージーパイの見た目は、まさにインパクトの塊といっても過言ではないほどのものです。
スターゲイジーパイに使われる魚はさまざまです。パイから飛び出した魚たちのうつろな目がさらに食欲を減退させてしまいます。そのインパクトの大きさは、イギリスの料理がまずいといわれてしまうのも納得してしまうほどです。
直訳すると「星を見上げるパイ」
スターゲイジーパイはスターリーゲイジーパイと呼ばれることもあります。正式名称はスターゲイジーパイです。直訳すると「星を見上げるパイ」と、なんともロマンチックな料理名になります。
スターゲージーパイの由来は、パイ生地からはみだした魚たちが星空を見上げているように見えることから名付けられました。とてもロマンチックな名前ですが、実際の料理をみてしまうと名前など吹っ飛んでしまうほどのインパクトです。
ピルチャードを卵やジャガイモと共にパイに包む
スターゲイジーパイに使われるのは「ピルチャード」という魚です。ピルチャードは、ニシン科の淡水魚ですが、イワシ類だともいわれています。ピルチャードは、オイルサーディンに使われることもあります。
オイルサーディン缶を開けたときに見えるのは、細長く調理されたピルチャードです。スターゲイジーパイにはピルチャードの頭部をそのまま使用するので、よりいっそう人々に食前から「まずい」と思わせるインパクトを与えてしまうのでしょう。
スターゲイジーパイは、ピルチャードを卵やジャガイモといっしょにパイ生地で包んだものです。家庭によって具材は異なります。日本でもスターゲイジーパイのレシピがありますが、卵とジャガイモは必ずといっていいほど入っています。
スターゲイジーパイを作るには、野菜やベーコン、茹で卵などを細かく切って炒め、ホワイトソースで絡めます。お皿に具材と下処理した魚を入れたらパイシートを被せます。このとき魚の尻尾が出るようにするとなお良いでしょう。
スターゲイジーパイに入れる魚は必ず上を向かせておくようにしましょう。スターゲイジーパイは家庭によって入れる具材も、使う魚も異なります。
SNSでインパクトがすごいと話題に
スターゲイジーパイはこれまでに数々のメディアで紹介されてきました。そのたびネット上では見た目のインパクトがすごすぎる、まずいに決まっている、これぞイギリス料理、どうしてこうなった、などと話題になりました。
スターゲイジーパイを作ってみた、という人がSNSにアップした焼き上がり前の写真では、パイの上に数匹のイワシの頭からうっすらと血が流れている様子が写っており、そのインパクトの大きさが話題になったこともありました。
ほかにも、ジブリ映画「魔女の宅急便」で登場する「ニシンのパイ」はスターゲイジーパイが元ネタになっているのでは、と話題になったこともあります。
おばあちゃんが主人公のキキと力を合わせて作ったニシンのパイは、少女の「あたしこのパイ苦手なのよね」の一言で台無しになってしまいます。しかしスターゲイジーパイのような見た目であればそういってしまうのもうなずけるような気がします。
スターゲイジーパイの歴史
まずいといわれ続けているイギリス料理のひとつ、スターゲイジーパイ には深い歴史があります。あのようなインパクト大な見た目になったのにも歴史が関係しているのです。ここからはスターゲイジーパイの歴史についてご紹介していきます。ぜひ参考にしてみてください。
マウゼルを救ったトム・バーコック
スターゲイジーパイの歴史には、トム・バーコックの伝説が関係しています。舞台はコーンウォールの西武にある港町のマウゼルです。スターゲイジーパイは、16世紀のマウゼルにいたトム・バーコックを称えるために作られました。
港町であるマウゼルでは、主に魚を食べて暮らしていました。しかし16世紀のある冬、嵐で風が吹き荒れてしまい、漁師たちは船を出すことができなくなってしまいました。クリスマスが近いというのに、村人たちは飢えに直面することになったのです。
村人たちが飢えに苦しむ中、トム・バーコックは船を出して漁へ行くことを決心しました。12月23日のことでした。嵐で荒れ狂う海に挑み、漁船を漕ぎだしたのです。彼の努力もあって、悪天候にもかかわらず大漁でした。
彼は村人全員が十分に食べられるほどの魚を獲ってきました。こうした伝説からスターゲイジーパイが誕生したのです。そしてトム・バーコックを称えるためにできたのが、トム・バーコックス・イブです。
魚の頭が突き出ている理由
スターゲイジーパイといえば、見た目のインパクトが大きいことで有名です。このインパクトのあるルックスも、スターゲイジーパイの歴史が関係しています。スターゲイジーパイから魚が飛び出しているのは、パイの中には十分な量の魚が入っているということを示すためでした。
当時、飢えに苦しんでいた村人たちにとっては、とてもありがたいことだったでしょう。今でこそインパクトのある見た目をしていますが、当時も十分な量を示すためのインパクトを狙ったものだったということが分かります。
スターゲイジーパイは、魚の頭を出すときに尻尾も出すことで、より一層インパクトを与えることができます。
スターゲイジーパイってまずいの?
スターゲイジーパイの見た目のインパクトは、深い歴史が関係しているからでした。それにしても魚の頭が飛び出していたり、時には尻尾がまるまる飛び出していたり、焼き上がり前の血のついた魚の頭を見てしまうと味が心配になります。
ここからはスターゲイジーパイの気になる味についてご紹介します。歴史あるスターゲイジーパイは、見た目通りまずいのでしょうか。意外に美味しく食べられるのでしょうか。スターゲイジーパイが気になる方は、ぜひ参考にしてみてください。
下処理が重要
見た目のインパクトが大きすぎるスターゲイジーパイは、下処理さえしっかりしていれば美味しく食べられます。パイの中にはジャガイモや卵、ほうれん草やチーズをホワイトソースで和えたいたって普通のパイと変わらない具材が入っています。
日本でスターゲイジーパイを作る際には、鰯やニシン、小アジといった魚が使われることが多いようです。下処理の例として、小アジの場合はしっかりとウロコを取り、ヒレを切り落としましょう。このときウロコをしっかり処理していないと、口の中にウロコがへばりつくハメになります。
次に小アジのお腹部分に切れ込みをいれ、内臓をかき出し流水でよく洗います。よく洗ったあとは、水分をよく拭き取りましょう。この水分がのちに臭みの原因となることもあるので、キッチンペーパーでよく拭き取ります。
最後に頭と尻尾の間でぶつ切りにすれば下処理の完成です。大きい魚の場合も同様に下処理をしておきましょう。内臓をかき出さずそのままぶつ切りにしてパイに添えるレシピもあります。魚によって下処理方法を使い分けましょう。
青魚の生臭さが残る
スターゲイジーパイがまずいといわれてしまうのは、下処理方法が問題だという説もあります。下処理を怠ってしまうと、青魚の生臭さが出てしまうのです。焼き立てのパイから漂う生臭さは食欲を減退させます。
スターゲイジーパイは伝統的な家庭料理でもあります。家庭によって使う魚もそれぞれ、パイの中身もそれぞれです。下処理が甘いと、それだけまずい料理になってしまいます。
口の中に違和感を残さないためにも、しっかりとウロコを取ること、生臭さを軽減させるため内臓をしっかりかき出し、流水で洗ったあとはキッチンペーパー等で水気を拭き取りましょう。新鮮な魚を使うことも生臭さを軽減させる方法です。
イギリス料理は調味料をあまり使わない
スターゲイジーパイをはじめ、イギリス料理がまずいといわれてしまうのには、調味料をあまり使わないことにもあります。スターゲイジーパイもそのひとつで、魚の下処理はおろか調味料を使って青魚の臭みを消すということもありません。
家庭料理ということもあり、コーンウォールにはさまざまなスターゲイジーパイのレシピが存在しています。しかしどれも味付けはシンプルです。場合によっては味付けは全くされず、各自テーブルにある塩や胡椒で味付けをするスタイルな家庭もあります。
スターゲイジーパイのほかにも、イギリスの料理は味付けがシンプルかつ素朴なものが多いのが特徴です。これにはイギリスの歴史が関係しています。塩や胡椒が貴重品とされた時代には、客人が好きな調味料を選び、好きなだけ使うことがもてなしとされました。
客人が自分で味付けをするとなれば、元の料理は味付けをしないか、薄くしていないといけません。その文化が現代にまで残っていることが、イギリス料理はまずい、味が薄いなどといわれるひとつの原因であるといわれています。
イギリス料理を食べた人や、イギリスに住んでいた人の経験談によると、イギリス人は野菜を茹ですぎてくたくたにしてしまったり、パスタを茹ですぎてふやけさせてしまうこともあるようです。これも歴史に関係しており、ビクトリア時代に生ものを嫌ったことが一因しているといわれています。
なんでも多く茹でたり焼いたりする文化が根付いているといわれています。ただ現代のイギリスにおいては、スパイスを使って調理を楽しむ人がいたり、イギリス料理が見直されてきているようです。
スターゲイジーパイのバリエーション
歴史深いスターゲイジーパイですが、実はさまざまなバリエーションがあります。16世紀から長きにわたって愛されてきたスターゲイジーパイは、家庭で作られる料理ということもあって変化を遂げてきました。ここからはスターゲイジーパイのバリエーションをご紹介します。
もともとは7種類の魚を使っていた
現在ではピルチャードを使ったスターゲイジーパイが一般的ですが、16世紀のスターゲイジーパイは、7種類の魚で作られていたといわれています。7種類の魚とは、ピルチャードのほか、イカナゴ、ウマヅラアジ、ヨーロッパトラザメなどです。
伝統的なレシピではピルチャードを使うことが多いのですが、ピルチャードの代わりにニシンやサバを使ってスターゲイジーパイを作ることもあります。
マウゼルの料理人であるリチャード・スティーヴンソンによると、ニシンやピルチャードを使った上で、ほかは白身魚であれば何でもいいとも言っています。
魚の代わりにザリガニや羊肉を使う時も
コーンウォールの伝統料理であるスターゲイジーパイには、ピルチャードを使うのが一般的とされています。しかし中にはザリガニや羊肉を使ってスターゲイジーパイを作る家庭もあります。スターゲイジーパイですので、ザリガニは上へ向けることが大切です。
スターゲイジーパイは12月23日に食べられる伝統料理です。16世紀の冬、村人たちの飢えを救ったトム・バーコックを称えるためにできた日、そしてスターゲイジーパイはお腹を満たすためにできたインパクトのある料理です。
近年ではベジタリアンやヴィーガンの方のために、ナスを使ったスターゲイジーパイを作ることも増えてきました。ナスの下の部分を魚に見立て、魚のようにしてパイの上に並べるのです。
イギリスのコーンウォールでは、生き方が多様化された現代においてもトム・バーコックを称えるためにスターゲイジーパイを作り続けています。
スターゲイジーパイはどこで食べられるの?
衝撃的な見た目をしているスターゲイジーパイですが、知れば知るほど美味しそうにも思えてきます。スターゲイジーパイを食べるにはどうすればいいのでしょうか。スターゲイジーパイが食べられる場所について調べました。
スターゲイジーパイは、イギリス・コーンウォールの伝統料理です。現在の日本ではスターゲイジーパイを提供しているレストランはありません。ただし、スターゲイジーパイを食べてみたい方はたくさんいるようで、手軽に作れるレシピはたくさんあります。
日本で手に入る食材で、日本の家庭でも手軽に作れるスターゲイジーパイのレシピがたくさんありますので、どうしても日本でスターゲイジーパイを食べてみたいという方は、コーンウォールの港町にある家庭のように自分で作ってみるのもおすすめです。
その際もしっかりと下処理をするようにしましょう。しっかり下処理しないと衝撃的な見た目の料理が生臭い味になってしまい、すっかり食べる気をなくしてしまいます。
イギリスの南西部の港町など
スターゲイジーパイを食べるには、やはり本場でいただくに限ります。イギリスの西南部の港町では、スターゲイジーパイを作っている家庭や、提供しているレストランがあります。それでもシーズン限定ですので、シーズン外は問い合わせが必要です。
トム・バーコックス・イブである12月23日のみ
イギリスでもスターゲイジーパイが食べられるのは、トム・バーコックス・イブである12月23日限定です。スターゲイジーパイは現地の人にとってお祝いごとの日に食べるものであり、伝統料理です。12月23日以外に食べたい場合は、各レストランに問い合わせましょう。
トム・バーコックス・イブでは、彼への感謝の気持ちを示すためにスターゲイジーパイが振る舞われます。パイから出ている魚の頭や尻尾は、パイの中にはあなたがとってきてくれた魚が入っている、という気持ちを伝えるためです。
港町で食べられるインパクト大のスターゲイジーパイは、来年もたくさん魚が獲れるよう願いを込めたものでもあります。
スターゲイジーパイは、イギリスの港町でないと食べることができません。ネット上ではBentley's Oyster Bar & Grillというお店でスターゲイジーパイが振る舞われているという情報がありますが、スターゲイジーパイは12月23日限定の食事ですので、期間外は問い合わせが必要です。
イギリスの港町にあるThe Ship Innというホテルでは、12月23日限定でスターゲイジーパイを食べることができます。ホテルは予約必須ですので、あらかじめ予約をし、スターゲイジーパイを食べたいということを伝えてから訪問しましょう。
スターゲイジーパイは英雄をたたえる料理だった!
食べることを躊躇してしまうほど見た目のインパクトが大きいスターゲイジーパイには深い歴史が隠されていました。あの見た目になったのは、村人を救ってくれた英雄への感謝の気持ちが現れているからなのです。気になった方はぜひイギリスの港町へ足を運んでみてください。