拾った栗を食べる際には、下処理として虫止めを行います。
拾った栗に限らずスーパーで販売している栗にも虫はいますが、虫止め処理をしているので問題ありません。
そこで栗を拾ってきたときに行う下処理・虫止めのやり方を、初心者でも簡単にできる方法でご紹介します。
栗の虫止めとは?
栗はブナ科クリ属の植物で、全国各地で栽培されている食材です。
原産地として有名なのは中国ですが、日本では古事記や日本書記に登場するほど古くから親しまれています。
ただし食用として食べられるようになったのは江戸時代以降で、参勤交代中に立ち寄る京都で名物品として提供していたのが始まりです。
そんな京都周辺の名物品・栗が江戸で話題になると、全国各地から集まってくる参勤交代の一行の間でも人気となり、江戸の帰りに持ち帰るようになったことから全国に広まり、栽培もおこなわれるようになります。
現在では全国各地に栗農家がいるためスーパーでも手に入りますが、日本で栽培されている栗の多くは「日本栗」です。
日本栗は日本の野生栗種・芝栗を品種改良して作られたもので、スーパーなどで販売している栗の大半は日本栗になります。
中華街で定番のお土産品・天津甘栗には、日本栗ではなく中国栗を使用しています。
なお焼き菓子やケーキで使われるマロングラッセは、ヨーロッパ栗から作られるのが一般的です。
他にも世界中にはさまざまな栗種が存在しますが、それぞれに特徴や食感などが違います。
ちなみに日本で生の栗を買う場合は「日本栗を買う」ということを意味します。
ただし日本栗の木は全国各地に自生しているので、わざわざスーパーや農家の直売所で購入しなくても、公園や山で栗拾いができることもあります。
栗の旬である秋になると、近くの森を歩いているだけでビニールいっぱいの栗が拾えることも珍しくありません。
ただし販売している栗以外を食べる場合には、調理前に栗の下処理「虫止め」が不可欠です。
下処理で虫の活動を止め甘みが増す
拾った栗を食べる前には「虫止め」と呼ばれる下処理を行うのが一般的です。
「おいしい食材には虫がつく」といいますが、それは栗にも当てはまります。
ただし虫止めをする理由は、栗の中にいる虫を死滅させることだけが目的ではありません。
そもそも虫止めが必要になるのは、栗の実を食べる虫の産卵期が栗の収穫時期に重なることと関係します。
虫も生物ですから、生きるためにはエサが必要です。
それは成虫だけでなく卵から孵化したばかりの幼虫にも当てはまります。
成虫は自由に移動ができますが、孵化したばかりの幼虫は自分でエサをとることができません。
そのためエサとなる栗の実に卵を産み付け、孵化したらすぐにエサが食べられるようにしているのです。
栗の虫止めにはいろいろなやり方があります。
栗農家では、出荷前に虫止めを下処理として行うのが一般的です。
プロが行う虫止めのやり方には、薬品を使う虫止め法や低い温度で一定期間保存する虫止め法などがあります。
かつては薬品を使った虫止め法が一般的でしたが、環境に悪影響を与える薬品もあるため、現在では環境への影響が少ない薬品で虫止めすることが多いです。
低い温度で一定期間保存する虫止め法は、プロだけでなく家庭でもできる虫止め法としてよく知られています。
虫止めが必要となるのは、虫の活動を止めることが目的です。
虫止め効果は冷蔵庫の温度(-2℃~3℃前後)で8日保存すると効果を発揮します。
栗農家が行う場合は専用の冷蔵庫が必要ですが、公園や山で拾った茎の虫止めには、冷蔵庫を使った虫止めもおすすめです。
ただし冷蔵庫のチルド室が虫止め効果に適した温度なので、チルド室がない冷蔵庫やチルド室に入りきらない量の栗の虫止めには使えません。
このようにいろいろな種類がある虫止め法ですが、出荷前や調理前に虫止めを行うのは「甘みをアップさせるから」です。
栗の栄養成分には甘み成分も含まれているのですが、虫止めをせずにいると虫が栗の栄養成分をすべて食べてしまうので、甘みが薄くなります。
ところが虫止めをすれば、内部に潜む虫たちに栄養成分を食べられることもありません。
そのため虫止めをした方が、甘みの強い栗に仕上がるのです。
栗にいる虫の種類
栗の木に寄生する虫はたくさんいますが、虫止めで活動を留める必要があるのは「栗鴫象虫(クリシギゾウムシ)」「栗実蛾(クリミガ)」の2種類です。
どちらも下処理として虫止めをすればおいしさを損なわずに済むのですが、活動が活発になる時期が重なっているので注意してください。
栗鴫象虫はゾウムシ科の昆虫で、数ある栗の害虫の中でも最も厄介な存在です。
成虫は8月上旬頃から出現し始め、9月下旬には出現数がピークに達します。
交尾を行うと栗の可食部に卵を産み付けるのですが、栗1個につき2個~8個の卵を産み付けるため、栗鴫象虫の被害は大きいです。
卵は長さ約1.5mmですが、産卵から10日前後で孵化し、栗の可食部を食べて大きくなります。
成長した幼虫は体長が12mm前後に達し、10月下旬~12月にかけて栗の外に出て土の中で冬越しします。
ちょうど外に出る時期が栗の出荷時期に重なるため、栗の表面に直径3mm前後の穴(脱出用の穴)が開いている場合は、栗鴫象虫が中にいたという証拠です。
栗実蛾も栗の可食部に産卵し、孵化した幼虫は栗を食べて成長します。
産卵や羽化のタイミングと栗からの脱出時期が栗鴫象虫と同じなので、とても厄介な害虫です。
しかも幼虫時の体長は20mmまで成長します。
栗鴫象虫と栗実蛾は、栗の収穫時期にはまだ体が小さいですし、糞も皮の外に出しません。
そのため見た目だけで害虫を見つけることはでほぼ不可能です。
ただし出荷しているわずかな期間に大きく成長するので、栗農家では収穫後に虫止めをして出荷します。
虫止めはかなり効果が高いので、虫止めされた栗であれば食べてもほとんど問題ありません。
虫食い栗の確認方法
スーパーや直売所で販売している栗は基本的に虫止めされているので、害虫の被害を受けている栗はほとんどありません。
ただし自然に落下したものを持ち帰った場合、虫止め処理をしていませんから、可食部が虫に食べれていることがあります。
皮の表面に穴が開いている栗の中に虫はいませんが、すでに中身を食べられているので、持ち帰っても食べることはできません。
皮に穴がない場合は、見た目で虫の有無を判断することは難しいです。
そんな時に簡単にできる判別法をご紹介しましょう。
栗を水に浮かべる
虫の有無を調べるには、水に浮かべるだけで簡単にできます。
虫がいれば可食部はエサとして食べられているので、中身がなく軽いため水に入れても沈まず浮かんできます。
虫がいても「孵化していない」「ほとんど食べられていない」という場合は、虫止めすることで食べることが可能です。
このような栗は可食部がしっかり残っているので、重さで水に沈みます。
生栗の虫止めと熟成の基本の方法
虫止めをすれば甘みが増しますが、虫止めをしながら熟成をする方法もあります。
熟成すると虫の成長に効果的な栄養成分がアップするので、虫止め前に熟成させることは基本的にできません。
その代わり虫止めをしながら熟成によって甘みをアップさせることは可能です。
栗の場合、単に保存するだけではイメージしているような熟成効果は得られません。
そもそも熟成させて甘みを引き出すには、アミラーゼと呼ばれる栄養成分が不可欠です。
アミラーゼはでんぷんを糖化させる栄養成分なので、熟成に効果的なのです。
ただしアミラーゼの働きによって熟成を促すには、虫止めをしてからでなければできません。
アミラーゼの効果が発揮されるのは40℃~70℃ですが、40℃前後だと虫の活動が止まりません。
温度を下げるという方法であれば、虫止めをしながら熟成させることができます。
この方法なら簡単に熟成ができますし、面倒な虫止めも手間をかけずに行うことが可能です。
手順
栗農家が行っている基本的な虫止め法は「水浸法」というやり方です。
栗を水の中に入れると、中に潜んでいた虫が栗から水の中に出てきます。
準備するものも水だけなので簡単なのですが、水浸法を行うタイミングが難しいので、拾った栗の虫止め法にはあまりおすすめしません。
ただしとても簡単にできる虫止め法ですし、水気をとって冷蔵庫のチルド室にしばらく保存していれば虫止め&栗の熟成ができます。
生栗の虫止めの簡単なやり方
栗拾いで集めてきた生栗はできるだけ早く虫止めをしないと、すぐに害虫の被害にあってしまいます。
そこで持ち帰ってすぐにできる簡単なやり方をご紹介しましょう。
手順
処理を始める前に、温度計と野菜用の穴開きビニール袋を準備してください。
準備ができたら生栗を水洗いし汚れを落とします。
この時に皮の表面をチェックし、穴が開いているものは取り除いておきます。
次に鍋に水を入れ火を付けます。
虫止めのポイントはお湯の温度です。
沸騰したお湯では虫の下処理にはなりません。
そのため温度計を使って「80℃」をキープしてください。
処理に適した温度になったら栗を入れて1分煮ます。
1分経ったらすぐにザルにあげ、野菜用穴開きビニール袋に栗を並べて入れます。
あとは陰干しで表面が完全に乾くまで待てばOKです。
虫止めした栗のおいしいレシピ
収穫後に虫止めをしないと被害が大きくなりますが、下処理が済んでいれば食べても問題ありません。
下処理には少し手間がかかりますが、処理済みの栗はいろいろなレシピにアレンジができます。
栗の甘露煮
旬の栗をおいしく食べるレシピとして人気の甘露煮は、意外と簡単に作れます。
まず皮をむいた栗を茹でます。
10分ほどで火は通りますから、お湯から取り出し湯切りしておきましょう。
その間に味付け用のたれを作ります。
調味料は砂糖、みりん、水、塩(少々)なので、とても簡単です。
栗の量で調味料の分量は変わりますが、栗そのものにも甘みがあるので砂糖を入れすぎない方が上品な味になります。
鍋に調味料を入れひと煮立ちさせたら、湯切りしておいた栗を入れます。
落し蓋をし弱火で約20分煮込んだら、保存用容器に入れて粗熱を取ります。
温度が下がっていく間に味が染みこんでいくので、重ならないように栗を入れるのがポイントです。
粗熱が取れたら冷蔵庫に入れ、1時間以上寝かせれば完成します。
栗は虫止めしてから調理しよう!
栗の木が近くにあればわざわざ買わなくても旬の栗が楽しめますが、拾った栗を調理する前には必ず下処理として虫止めを行いましょう。
虫止めは初心者でもやり方が分かれば簡単にできます。
なお栗の中に虫がいるか否かは水に浮かべるだけで分かるので、虫止め処理と併用するのがおすすめです。